エジプトを舞台にしたアサシンクリードオリジンズは、映像やストーリーにおいて非常に高い再現度を評価されている作品です。しかし、エジプトに対して中学生並みの知識しか無い著者にはその再現度を十分に楽しむことができません(汗。そこで、本記事ではよりゲームを楽しむことができるよう著者が調べたエジプトに関してまとめていきます。
本ゲームからエジプトに興味を持たれた方の知的好奇心の一助になれば幸いです。なお、記事の性格上ネタバレも含みますのでご注意ください(まあ2017年発売のゲームなんですが…)。
オリジンズの序盤はメジャイと呼ばれる主人公がいつものアサクリの如くパルクールを極めつつ暗殺していき、どうやらプトレマイオスという王様が悪者と親玉だ!と分かってきます。…いやいやメジャイってなんだよ!プトレマイオス朝っていつ?
作中では民衆の味方かつ王族にも精通しているメジャイ。騎士みたいなものかな?と思って調べるとざっくり言って役職名で警察のようなものなんだとか(少なくとも作中当時では)。
なぜ注釈を入れたかというと参考にしたこちらの記事によると、元々はエジプトに敵対する部族(ヌビア砂漠東部)の名称なんだとか。それが身体能力や忠誠心を見込まれ、王宮や神殿の警護を行う雇われ傭兵となり、そのうち治安維持を担う者と変化していったのだとか。
…うん、これだけだと疑問しか湧いてこない。なんで敵対してんだよ!とか敵対してんのに忠誠心てなんだよ!とかそもそもその時エジプトってエジプトなのかよ!とかヌビアってどこだよ!とか。しかし「メジャイ」でググっても上記記事意外ろくなものがヒットしない。仕方ないので現状分かるところだけまとめておく。
英語版wiki(日本語版はない…)をみてみると、メジャイは新王国時代の第18王朝(前1539~1292年頃、作中は前50年頃)ではエリートの準軍組織を指していたよう。そして第20王朝(前1190~1077年頃)にはエジプトの記録では使用されなくなったとのこと。…え!作中で「最後のメジャイ」なんて言ってた割に子供に継がせようとしてたし、残念ながら途絶みたいな感じかと思ったらそれよりも1000年以上前から記録から消えてるんかい!前500年くらいにも関係してそうな記録があるとのことだがだとしてもよ。まあ滅んだと思われてた部族が細々と生き長らえるなんてのは王道ストーリーではある。
ちなみに、ヌビア砂漠はだいたいこの辺り。コトバンクによるとナイル川と紅海の間らしい。…スーダンじゃねえか!いや、当時はスーダンじゃないかもれないけどカイロまで1000kmあるんですけど!?これが敵対する距離…おそろしき古代人。

作中の場所に関して、当初はゲーム内マップとgoogle mapを比較すればいいと考えていましたが…全然合わねえ!
なんといっても作中は今から2000年以上も前、さらに氾濫の多いナイル川沿いだけあり地形もちょっと違うし、ゲーム的に縮尺が違うため都市と都市が近すぎたり、地名や都市名が滅んでおり検索しても簡単に見つからなかったり…。ということでざっくりとエジプトの上半分辺りが作中の舞台、と理解しておくことにしました。

誰かが作ってくれたものを拝借しました。Thanks
その中で物語の始まりであり主人公バエクの故郷シワは現在も存在しており、エジプトの西側隣国リビアとの国境近くらしい。ゲーム内ディスカバリーモードの解説によると独特の文化が残る田舎ではあるものの神殿や神官が高く評価されていたのだとか。確かにアレクサンドリアやメンフィスに比べると田舎感がある。シワではバエクがよく呟くようにアムンへの信仰が盛んでそのための神殿がある。さらにギリシャ人の入植以降、ゼウス=アムンと認識されていた土地でもあるらしい。後述の通りアムン=ラーなので三位一体で最高神である。強い。

また、地面に広げられている赤い実はなんだ?
と思っていたのだけどどうやらこれはナツメヤシという植物の実らしい。木になっているときから自然乾燥し、栄養価が高いよう。なおコーランの「神の与えた食物」、旧約聖書の「エデンの果実」のモデルであるという説があるとか。意図しているのかアサクリ全体と密接に関係する果実。現在でもエジプトは一大産地らしく、生産量世界一位(17%)。


こちらの記事によるとオリジンズのマップサイズは80㎢だとか(フォートナイトが5.4㎢、ゼルダBoWが75㎢、GTAVが81㎢)。オープンワールドゲームの中でも広めのマップサイズですが、やはりゲームとして落とし込んであるようで全土ではないとはいえエジプト自体の面積は1,010,408㎢、最小の県香川でも1,876㎢、東京23区が626㎢と大分縮尺を変えているようです。まあそうでもないと移動だけで終わってしまいますが。
下記動画では有名なオープンワールドが収録されていてオススメです。
作中中盤くらいからはクレオパトラを助ける形でプトレマイオス王(ファラオ)の臣下を暗殺していく。ここでいうクレオパトラとは世界3大美女のクレオパトラ7世とプトレマイオス13世のこと。クレオパトラが王宮を追われ、プトレマイオスがファラオになっておりそのうち主人公が暗殺しそうなのでおそらく 前47年前後が作中の時代だと思われる。
それにしてもクレオパトラ7世とプトレマイオス13世は実の姉弟かつ夫婦である。まあ王族であることを考えれば普通かな?なお結婚時クレオパトラ18歳、プトレマイオス10歳である。
折角なので何故世界的美女(悪女)にされているかも調べてみた。時系列に並べると
1.プトレマイオス13世(弟1)と結婚
2.13世に追放されたためポンペイウス(愛人1_ローマ人)に保護を求める
3.ポンペイウス、13世に殺害
3.ポンペイウスと敵対していたカエサル(愛人2_ローマ人)に惚れられローマの権威が強化されるも、キプロスをローマから返還される
4.13世が死んだ後14世(弟2)と結婚
5.カエサルとの間に複数の子供をもうける
6.カエサル死後カエサルとの子供は全員殺害されるもアントニウス(愛人3_カエサルの武将)を惚れさせ子供をもうける
7.なおカエサルもアントニウスも妻がいた
…うん、時代が違うとはいえお近づきになりたくない女性であることは間違いない。
なお、クレオパトラに関するエピソードも簡単にまとめておく。
・絨毯にくるまって会った→カエサル
・船に乗って扇がせつつエロい姿で会った→アントニウス
・釣り竿に干し魚を引っ掛けて嘲笑した相手→アントニウス
…アントニウスはドM。
古代エジプトの歴史をざっくり追うのならこちらのサイトが見やすい。
気にしないで進めることもできるが、気になると滅茶苦茶気になるのが作中でおかれている世界情勢です。「エジプト人」って言葉が出るくらい外来人がいるし、あきらかに「ギリシャ」っぽい人が権力握ってるし。
ざっくり作中前後のエジプト史を調べてみました。
まず古代エジプトを俯瞰すると、次の画像のようになるそうです。
神統時代というのがラーとか神が出てくる神話の時代、次の初期から末期王朝までを31の王朝に区分したのが「王朝時代」、で、アレクサンドロス大王に征服されてプトレマイオス朝となり、その後ローマに征服されます。31の区分は現代の歴史学者が考えたわけではなく、前300年頃にプトレマイオス2世のために当時の神官がまとめたものが元になっているそうです。王朝が滅んでも残る、ペンは強し。なお、作中は前述の通りプトレマイオス朝の末期です(クレオパトラ7世が最後のファラオのため)。
王朝時代はまあなんやかんやあるわけですが、「エジプト人が支配していた」とは限らないようで「エジプトという場所の王朝」というのがしっくりきそうです。というのも確かにエジプト人が支配地域を大きくした時代もありますが、別の地域から来た民族にとって代わられることも多かったようです。
そんな支配して支配されての後に前332年にアレクサンドロス大王がメンフィス(当時の首都、作中にも登場)を占領し、翌年アレクサンドリア(都市、作中で主人公が妻に会う場所)を建設。大王の死後に武将の一人であるプトレマイオスさんが治めたことにより、プトレマイオス朝が始まったのだとか。当然プトレマイオスさんはギリシャ(というかマケドニア)人。完全にエジプト終了のお知らせである。まあ土着の文化は尊重したらしいですが。
なお、大王にエジプト州提督に任じられていたのは別の人で、その人を追い出したのが部下だったプトレマイオスさん。つまり銀英伝に例えると、旧同盟の総督に任じられたロイエンタールを追い出してベルゲングリューンが旧同盟の総督になるということ…!すげえ、銀河の歴史がまた1ページ…!。いやしかし大王は銀英伝に例えると大分分かりやすいんですよね。要はどんどこ支配地域増やしたラインハルト(大王)が急逝(ラインハルトも)して、部下が皆して反乱(ここは銀英伝と違う)していく…という流れ。その一地域がエジプトだった、ということ。
大王の征服により文化が混ざり合い「ギリシア風文化(ギリシア文化+オリエント文化)=ヘレニズム」が台頭し、部下がそれぞれ分裂・成立させた王朝をヘレニズム三国(1国がエジプト)と言い、作中のエジプトはこのヘレニズムの影響をかなり受けていたりします。そのためギリシアぽい建築物や文化があり、被征服地であるためギリシア人がでかい顔で沢山いるわけです。
そんなヘレニズムの1国としてやっていくエジプトですが、270年くらい(江戸時代と同じくらい)で弱化していき、前述の通りクレオパトラ7世がローマの介入を許したことでカエサル、アントニウスときてアントニウスに勝利したオクタウィアヌスさんが支配し、その後正式なローマ初代皇帝となり2代目皇帝トラヤヌスによって最大の領土を獲得する…というように歴史が流れていく。その間エジプトは属州として穀物供給地としての役割を担っていく。なお、アントニウスの敗北後クレオパトラ7世は自殺したらしいが作中でその収シーンはあるのだろうか?
さらにその後のエジプトは、イスラーム化したり、オスマン帝国領になったり、自立したりイギリスの植民地になったり、エジプト王国として独立したとおもったら革命で倒され、アラブの春ったりと、安定しないまま今日に至るらしい。
…うん、よそのことながら大変そうだ。
プレイしていて地味に困ったのは固有名詞が人物名なのか神話の神々なのか判別がつかないこと。異国の未来人(作中基準)からするとどれも神々に聞こえるんよ!ということで作中でよく聞くところだけまとめておく。
作中で死後の世界(天国?)というニュアンスで「葦の原野」というセリフが登場します。
これは古代エジプト神話における楽園のことで「アアル」というそうです。オシリスが支配する世界で死後に死者の審判を経て至る事ができると考えられていたとか。審判で優良判定だと行ける場所なので天国と同義の場所なんでしょう。葦原で水が豊かで狩猟と漁ができる場所らしく、気候の厳しいエジプトらしい天国像と言えます。恐ろしいのは、審判をクリアしても「長く危険な旅」を経なければたどり着けないらしく、キリスト教的な天国よりも大分ハードルが高いです。死んでからも苦労するとかたまったものではありません。
有名な天秤を用いた判定が死者の審判です。天秤に「真実の羽」と「自身の心臓」を掛け、心臓の方が軽かったらクリアというもの。何故心臓かと言うと知性は心臓に宿り、生前の悪事は心臓に溜まる=重くなるという考えだったからだとか。今だと脳になるのかな?ミイラ化の時にも心臓は取り出されないということで、どれだけ重視されていたのかが分かる。もし取り出されていたら正確に判定してもらえないかもしれないし。
死者の審判で心臓の方が思い=悪人の心臓を食べる鰐に似た怪物。
そんな存在なら鰐ってもっと恐れられててもいい気がしますが、作中だと兵や民に結構殺されてるんですよね…。それはそれってことかな?
ちなみにナショジオのナイルワニのページによると、大きさは平均5mの220kgで、獰猛な性格なんだとか。…バエク強くね?

死者の審判で天秤を監視している神。
作中でも神官から祈りを捧げられていたが、ミイラ作りの神でもあるらしい。
様々な作品でよく登場する名称だけど、死者の行き先を管理しているという設定が使いやすいからなのかな?なおオシリスが近親相姦(妹)した末の子供。その上セト(妹の旦那、義弟)に殺されたオシリスの補佐をしている。できた子だなぁ。

前述したが特にシワで信仰厚く、バエクが度々呟く「アムン」。
こちらも古代の神らしく、当初は大気の神だったものが長い年月を経てラーと一体化し主神となっている。大出世である。
呼び方はアメン、アムン、アモンなど。名前は「隠れた者」という意味で実にアサクリにピッタリ。雄羊が象徴として信仰されていたよう。
アレクサンドロス大王が自称した「アモンの息子」もアモン=アムン=ラー=ゼウス、つまり最高神である。なお、この自称はシワの神殿で行われたらしい。…まあ作中のさらに300年前なんですけどね。

斜面の角度が2段階に変わるピラミッド。
スネフル王のために前2600年頃に建造されたもので、途中で構造が不安定になる兆候から傾斜角度が変わったのだとか。本当はもっと高く(101m)したかったのかな?

エジプトのイメージというとミイラという印象が強いが、作中ではまさにミイラの作成シーンや役職なんかが登場する。
古代エジプトでのミイラは脳や内蔵(心臓意外)を取り出しナトロン(後述)に70昼夜浸し、その後包帯で巻いて完成。なお脳は鉤状の器具で鼻からかきだされる(Skyrimではこの道具が遺跡のあちこちに転がっている)。取り出された臓器はカノプス壺に入れられ保管さr…ちょっとまって、似たような形状から今作もSkyrimもゴールド取ってるんですけど。…ご、ごめんなさい。

ミイラが途中で腐敗して困ってる!というミッションで登場する物質。混合物で「炭酸ナトリウム10水和物(Na2CO3・10H2O)と炭酸水素ナトリウム(NzHCO3)が主成分。作中では池?が林立する場所で採取していたが実際に天然に産出する鉱物で、純度が高いと白く見えるらしい。作中の精製技術凄い。池のようなものは塩湖で、塩湖が干上がったところにできるらしい。乾燥剤としてミイラ作りに用いた他石鹸や燃料など多様な利用がされていた。作中でも体調を崩していた人がいたが、塩基性なのであまり触れすぎない方が良さそう。
なお、多くの生き物にとっては有害ですが、一部のフラミンゴはこの環境に適応しているようです。

当然のことながら例え1国1時代でもまともにまとめようとすると何十冊と本が書ける程のボリュームになってしまうので、プレイ時に疑問に思ったこと中心にまとめてみました。まだクリアしていないので、今後プレイしながら追記していこうと思います。
最後に参考にしたサイトのリンクは下記。